雨に唄えば

 朝から雨が降っている。
 雨が降ると思わず口ずさんでしまう歌・口ずさみたくなる歌のある人は少なからずいるのではないだろうか。

♪ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪
♪とぉめてえ~ あのぉ~ ショパァン♪
♪バカンスは いつも レエエエン♪
――雨にまつわる歌はいくらだってある。

 私も雨の日には口をついて出てしまう歌がある。
♪まあるくって ちっちゃくって さんかく♪
 サクマの「いちごみるく」のCMソングだ。ご存知の方は年齢がばれるというものである。

 なぜ、この曲が私にとっての雨歌かというと、賢明な読者諸賢はお気づきだと察するが…そう、いちごみるくは「あめ」だから。
雨に唄えば
 幼い頃、サクマのいちごみるくと言えば我が家では高級品だった。類似品(製造元は失念した)ならば買ってもらうことはあったが、サクマとなるとなかなか家にはお目見えしなかった。金額としては、類似品はサクマの半額程度だったのではなかろうか。

 私はブランド志向ではない。
 いろいろなことにこだわりはあるが、「ブランド」の名にこだわりはない。サクマというブランドが気に入っていたわけではないのだ。品質もよく、且つ安価であるならば、私は迷わず類似品を選ぶ。
 しかし、2つのいちごみるくには、月とすっぽんくらいの味の差があったのだ。
 勿論、月がサクマ・すっぽんが類似品である。

 具体的に言うならば、サクマは白いミルク味の部分が非常に多かった。美化されているのかもしれないが、全体の3分の1ほどを占めていたように思う。
 一方、類似品の方はおしるし程度。水性ボールペンでさっと線を引いたような……そんな感じではなかっただろうか。

 「いちごみるく」は、ミルク部分が魅力だというのに!
 あの、シャリシャリ感がたまんないというのに!
 ミルク部分が無に等しいならば「いちごみるく」を名乗ってはならぬ!
 いちごアメとでも言うべきだ!
……ともあれ、サクマのいちごミルクは幼い私にとって、憧れだった。虫歯になるくらい、シャリシャリ感を味わってみたかった。

 少女時代の私は雨から飴を連想し、雨が降るたびにいちごみるくのCMソングを口ずさみつつ、こう思ったものだった。
(雨じゃなく飴が降ってきたらいいのになあ)
(いちごみるくが降ってきたら、学校休んで拾い集めるのになあ)
……さて、現在の私はどうなのか。
 雨天になると幼少期の記憶が呼び覚まされるのだろうか、今もって私の雨歌は変わっていない。しかし、思考の方向は随分変わってしまった。

 朝から雨が降っている。
♪まあるくって ちっちゃくって さんかく♪
 雨の落ちてくる空を見上げながら、大人になった私は考えを巡らせる。
(雨じゃなくてビールが降ってきたらいいのになあ)
(ドンペリだったら売れるよなあ)
(あ、それよりお金が降ってこないかしらん? その場合、我が家だけに集中豪雨というのが望ましいなあ)

♪まあるくって ちっちゃくって さんかく♪
 ああ、幼き日の自分が懐かしい。(了)