酒が好きだ。控えなくてはと思いつつも、毎日飲んでしまう。ビールから日本酒まで何でも好きなのだが、一番はスピリッツ系。スピリッツの中でもジン。ジンの香りと味が好きだ。中でもボンベイサファイアが私の中の特等席に座っている。
ボンベイサファイアの特筆すべき点は、ビンの美しさである。透き通った薄青いビン。水色というよりは薄青といったほうがしっくりくる色で、まるで大きな宝石のようだ。サファイアという名に相応しい。 この酒に初めて出会ったときに頭に浮かんだのは、グリム童話のヘンゼルとグレーテルにある一節だった。2人がお菓子の家を発見した場面である。 ――ヘンゼルとグレーテルが近づいてみると、その家は香ばしい香りのするパンで作られていることがわかりました。屋根にはビスケットがしきつめられています。そして、窓は透き通った砂糖でできているのでした―― 幼い頃、この童話が大好きだった。父親の車に乗せてもらう時にはこのテープをいつもかけてもらっていた。そして、ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家にたどり着いたときには、私の目の前にもお菓子の家が現れていた。この部分が聞きたくて何度もテープをかけてもらっていたと言ってもいい。 ――窓は透き通った砂糖でできているのでした―― お気に入りのグラスにジンを注ぐ。 そう、ジンは薬なのだ。酒の神バッカスが私に処方してくれた薬なのだ―― という、うまい言い訳ができたので、今夜もジンをいただくことにしよう。(了) |