天の川に願いを

 今頃七夕の話? と思われる方もいるかもしれないが、本来の七夕は8月15日。明治維新後、わが国でも太陽暦が採用されるようになったが、それ以前は太陰暦を使用していた。いわゆる旧暦のことだ。現在の8月15日が旧七夕様。現七夕の7月7日はちょうど梅雨時で、天の川にお目にかかれることは非常に難しい。本当は8月15日が見ごろなのだ。

 現在は短冊に願いごとを書き、それをつるした笹を飾っての七夕祭が開かれるが、昔の笹飾りはもっと具体的なものがつるされていたらしい。
 字がうまくなるようにと、硯(すずり)や筆。裁縫がうまくなるように布の切れ端。更に過去にさかのぼれば願いの次元がずいぶん違ってくる。七夕祭の起源は「生きてゆく」ためのものだったのだ。

 雨の少ないその時期、天の川に祈れば雨が降り田が水で満たされ、豊作になるという雨乞い信仰。それが七夕の星祭りの始まりだった。
 そこで感動するのは、その時代の人たちのロマンチストさだ。天の川の水が地上に降り注ぐだろう、流れ込んでくるだろうと信じた想像力がうらやましくなる。

 8月15日の夜になると私の足はお気に入りの川原へと向かう。そして天の川をぼんやりと見遣る。そうしていると、眼前の川と夜空を横切る天の川がつながっているように思えてくる。
 天の川の水がこの川に流れ込んできている…わけもなくそう確信してしまう。雨乞いにより田が水で満たされるように、私の心も充足の水で潤っていく。私は魂への雨乞いをしてきたのかもしれない。

 もうすぐ旧七夕。今年も例の川原に出かけよう。心に日照りがないように、我が人生が豊作であるように、と願いをこめて――。(了)
天の川に願いを