美の定義

 繊細なものが好きだ。壊れそうなほど脆いものが好きだ。消え入りそうに儚いものが好きだ。

 美の定義は国や個人によりさまざまだと思うが、私の美しさの定義はこのあたりで出来ている。

 ぞんざいな扱いをすれば割れてしまうガラス細工。
 日が昇ればたちまちその姿を消してしまう水たまりの薄氷。
 刃(やいば)のような新月前の三日月。
 世を憂いて他者との関わりを絶つような厭世的な人間。痩せていれば尚よし。
――見ているだけでうっとりしてしまう。 
 
 こういった好みは持ち物にも現れる。私のお気に入りの物のひとつにレースや刺繍のハンカチーフがある。コットンで薄く織られていて、繊細な刺繍が施されているハンカチーフ。
美の定義1 

 使い勝手は非常に悪い。これで手を拭こうものなら瞬時にビショビショになり、そのままバッグに入れようものなら、次に取り出した時にはクシャクシャになっている。洗濯後はアイロンをかけないとみっともない状態になる。

 アイロンをかけたり、シワにならないように仕舞ったり、刺繍やレースがほどけないように丁寧に扱ったり。手をかけて時間をかけて関わっているというのに、それに見合った働きをしてくれない。こちらが消耗するばかりだ。

 だが、それでいいのだ。

 額の汗をそっと押さえるのは、これでなくてはいけない。絶対に。
 ガシガシ拭いても平気な顔をしているタオルハンカチなどは美しくないから嫌いなの。

 機能なんてどうだっていい。美しいものや恰好がいいものは、得てして使い勝手が悪いものなのだ。「使えないモノ」は美しい。「役立たず」は美しい。「機能性のあるモノ」は美しくない。そう信じている。

 美しいものは美しいだけでいい。付加価値などいらぬ。美しいことが存在意義なのだ。
美の定義2

 人間だってそうなのかもしれない。
 諺にもあるではないか。「色男、金と力はなかりけり」と。意味は、外見の美しい優男(やさおとこ)は力(財力・権力・腕力等)がないものだということ。

 人を魅了するモノは、何の機能も持たない。
 人を魅了するモノは、ただ、美しいだけ。
 人を魅了するモノは、役立たずだ。

 色男、金と力はなかりけり。
 うむ、うまく言ったものだ。

 ああ、もう年の暮れだ。来る年は少し機能性を考えてみようかしら。年を重ねるごとに残された時間は少なくなっていく。物でも者でも、応えてくれないモノに手間暇かけている時間がもったいない。来年はタオルハンカチを買ってみようかな。
……多分買わないけどね。(了)

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