御器カブリ

 その字面すら、見るのもおぞましい生き物――ゴキブリ。好きな人間はほとんどいないだろうと思われる。研究家だったか何だったか忘れたが、嬉しそうな顔をして身体中にまとわりつかせているのをテレビで見たことがある。その地獄絵図に卒倒しそうになった。

 私のゴ嫌いレベルは、一般的にどのくらいのレベルなのか分からない。図鑑のそのページは紙を貼って隠してある。実物に殺虫剤を吹き付けることもできない。そこまで近寄れない。みんなそんなものだろうか。

 毎年1匹見るか見ないかくらいなのだが、その時期になると恐怖感からか必ず夢を見る。ゴ風呂に入ったり、ゴ料理を食べねばならなかったり。私はその度「ひぃぃ!」と声を上げ、目覚めこととなる。

御器カブリ

 夜中に、まるで断末魔のような悲鳴。もし、うちで何か凄惨な事件が起こって私が悲鳴を上げたとしても、ご近所様は「またか」くらいにしか思ってくれないかも知れない。そこはとても心配である。

 ところで、このおぞましい生き物、江戸時代には「ゴキカブリ」と呼ばれていたそうだ。ゴキは「御器」で器のこと。カブリは「かぶりつく」のカブリのこと。器に残っている食べ物だけでなく、器そのものまでかじってしまうことが由来らしい。

 そういえば昔、発泡スチロールトレイをかじっているゴを見たことがある。ガリリ・ガリリ・ザリ・ザリと、すさまじい音を立てていた。語源どおりの図だ。それにしても発泡スチロールでも驚いたものだが、実はやつら、はるかに固い「器」までかじることができるとは。あな恐ろし。

 あーあ。こんな記事書いちゃったら、また今日、夢見るんじゃないのぉ? ひぃぃ~!!(了)