 課 題
どうしようどうしようどうしようどうしようと手が麻痺する迄書きつけていた時だ
単語達がひとつの意識を持ち始め どうしよう が細胞分裂し どうしよう を無限に生み出し始め どうしよう が部屋を埋め尽くしてしまった
このまま放置すれば部屋から溢れ出るかもしれない動植物を襲うかもしれない生態系を変えマントルに染み込み大気圏に拡散され太陽系を飛び出し膨張膨張膨張膨張膨張あああ
罪悪感に苛まれた私は さあどうしよう と付け足して責任をとった そこで漸く どうしよう の生産は中止された
安堵を得たのも束の間で どうしよう と さあどうしよう の狭間で美しい不協和音が生まれ始めた 迂闊にも魔の誘惑に乗り 音源に触れてしまい酩酊状態に陥った
恍惚とした眼で紙の上を見ると どうしよう は既に どうしよう の意味を脱却し 呪文と化してしまっていた
その時 どうしよう の根幹にあった問題を忘れ去りそうになったので危険を感じ原点に立ち返ろうとした だが私の生んだ語群を 私の体内に引き戻すことは不可能で とうとう私はそれらを置き去りにして 次の課題に進まざるを得なかった
こまったこまったこまったこまったこまった
(初出:1996年4月)
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