長野の別荘地に家を持つ友人宅での話。 そこは、森(山)の中の別荘地だった。 上から見下ろすと、別荘地一帯が樹海。 本当に、森の中に住んでいるような状態なのである。 家の周りは当然木々に囲まれている。 こういう環境だからこそ起こりうる面白い事件に私は遭遇した。 友人宅はログハウスだ。 外観を拝見していたとき、屋根のあたりに穴が開いているのを発見した。 直径5センチくらいだろうか。ぽっかりと黒い口を開けていた。 友人にたずねてみると、キツツキが開けていったというのだ。 2~3日前からコツコツとやっていたらしい。 回りに木々がたくさん生えているというのに、なぜ、人家を狙うのだ? 第一、キツツキが木をつつくのは、中にいる虫を食べるためではないのか? ログハウスの木の中には虫はいないだろうに……(多分)。 そこで有名な寓話を思い出した。『カモメのジョナサン』だ。 “餌をとるためだけに空を飛ぶ”仲間たちと一線を画し、 純粋に“飛ぶ”という行為に喜びと生きがいを見出す崇高なカモメ、ジョナサン。 ジョナサンは群れから追放されても、飛行を追及していく。 私は考えた。友人宅に穴を開けていったヤツは、 キツツキ界のジョナサンなのではないか。 「餌をとるために木をつつく」という生き方に疑問を抱き、 純粋に「つつく」という行為を追及しているのではないだろうか。 ――自分は素晴らしいくちばしを持っているというのに、何故、食べるためだけ にしか使ってはいけないのか―― しかし、ジョナサンと違ってどこか格好悪い。スマートさにかける。 したがって、ヤツの名前は『カモメのジョナサン』ならぬ 『キツツキのキッチョンチョン』くらいが似合っているだろう。 友人には申し訳ないが、ぽっかりと開いた穴を見て、 そんなことに思いを馳せたのだ。(了) |