山川のくだくる水に秋の蝶 高浜虚子 秋深き隣は何をする人ぞ 松尾芭蕉 肩に来て人懐かしや赤蜻蛉 夏目漱石
有名な秋の俳句はたくさんある。秋のうつろいやすい気候やはかなげな生き物、感傷的になる心の動きを詠んだ句と並び、この季節になると必ず思い出してしまう句がある。
かなり下品なので書くのはためらわれるのだが、思い切って記すことにする。
「イモ食えば パンツ貫く 屁の力」
名作かと。
これは私が作ったものではない。 そう、高校生の時のことだ。学校全体で一つの冊子が作成されたことがあった。冊子の内容は、各クラスの主張(私たちはこんなクラスで~す、みたいなこと)や各クラブ活動の特色や戦績などにページが分かれていた。この冊子を作成するにあたり、事前にアンケートもとられた。「今、なにをすれば世間から注目されると思うか?」というような質問が羅列されたアンケート。面白い答えは、その冊子に掲載された。 なんのために冊子が作られたのかよく分からないのだが、3年間のうち、発行は1回だけだったと記憶している。その中に、生徒の投稿作品というノンセクションコーナーがあったのだ。 コーナーには俳句や川柳が掲載されていた。ひょっとしたら詩やイラストなどもあったかもしれないが覚えていない。その中で私の目を釘付けにしたのが「イモ食えば パンツ貫く 屁の力」だった。
詠み人の名前は分からない。冊子に名前が掲載されていたのかどうかも覚えていない。目にした時から軽く20年以上経過しているというのに、それでも色あせることなく蘇るこの句。 作者は、私の記憶にこれほど鮮明に残るなどとは思いもしなかったであろう。ご本人も、この句を忘れているのではないだろうか。作者は今、なにをしているのだろう。何屋さんになっているのか。
秋が訪れる度この下品な名作を思い出す。そして作者の現在に思いを馳せ、なぜだか少しセンチになるのが私の恒例行事なのである。(了)
|