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生まれて初めて、蝉の羽化に付き合った。 蝉は幼虫の姿で7年ほど(最近では1~5年程度と言われてる)土の中で過ごし、地上に出てからは1週間の生命(この寿命ももっと長いことが最近では証明されている)。 「わが世の春」とでも言うべき時期が短い(と思われていた)ことで、哀しみや切なさの代名詞として扱われることも多い虫だ。
しかし、土の中で何年も過ごすセミは、多くの虫たちと比べて寿命は長い方なのではないか。 加えて、地上に出てからの期間が短いものなのか長いものなのかは、蝉時計を持っていないから判断できない。その期間はあっという間に過ぎるものではなく、人間が何十年にも感じるほどの長遠な流れなのかもしれない。 人間の視点から見るとネズミの寿命は短く、ゾウの寿命は長い。しかし、時間の流れというのはそれぞれの動物でまったく異なり、皆同じ長さだけ生きているというのだ。 ネズミは1回心臓を動かすのに0.1秒しかかからずゾウは3秒かかるが、両者ともに生涯に打つ心拍数は同じ。哺乳類は一生の間に15億回心臓を動かす。この心拍数を基準に考えると、皆同じ長さだけ生きていることになる、という興味深い内容だ。 (御一読をお勧めするが、概略だけでも知りたい方はこちらをどうぞ→→ 『ゾウの時間・ネズミの時間 』 )
生き物は皆、それぞれの時間の流れの中で生きている。他の生物の寿命が長いだの短いだのというのは、人間時計で測っただけの勝手な判断なのだ。
蝉自身がどのような時間の流れを感じているかは、ヒトの感覚では全くわからない。 けれども、羽化を見ていて感じたことがある。 セミは幼虫としての生命を一度終え、二度目の生を受けるのだ。一度目は意思とは関係なく偶然卵から生まれたのかもしれないが、二度目は自ら望んで生まれるのだ。生の選択をしたのだ。 ――殻を懸命に脱ぎ捨てる姿を見てそう思わずにはいられなかった。
写真には撮らなかったが、羽化の途中で息絶えて地面に転がっているものもいた。蟻を全身にまとっているものもいた。幼虫の姿のまま、土の上を歩いているものもいた。地面から這い出ることなく絶命するものも多くいることだろう。いざ地表に出ようとしたら、地面が舗装されていてどれだけ頑張っても出れらない……そんなものもいるだろう。 運命というものは本人の努力だけではどうしようもない部分もあるのだ、頑張っても報われないこともあるのだ――そんなことが頭をよぎる。
色んな障害が重なって、それでもなおかつ地表に出て、無事に羽化し、交尾をして子孫を残し、生命を終える。奇跡のような出来事だ。使命に生き、生命を燃やし、果てる姿は美しい。
私も僥倖にめぐりあい、生を受けて地表にいる。懸命に生き美しく果てなくては、羽化を見せてくれた蝉に申し訳ない。残された生命、託された使命。無駄のないよう懸命に生き抜くことを蝉に誓う。(了) |