深紅の髪飾り

 

 近所で見つけた赤い実。子どものころによく見かけた実だが、名前などは知らなかったし、知ろうとも思わなかった。普通に草むらなどで見ることができ、珍しくはなかったはずだ。

美男蔓

 みずみずしく美味しそうでもあるが、毒でも持っていそうな形。赤というより「くれない」「べに」とでも表現した方がしっくりくる妖艶な色。魔女が薬を調合するために欲しそうな実だ。それは幼い私の心に深く染みついていた。名前など知らずとも、それだけで良かった。


DSC_0785 何十年もの時を経てこの実と再会した今、その名を知りたくなった。直後、脇に立つプレートに気づいた。
 これは美男葛(ビナンカズラ)と言う名らしい。昔、樹皮からとれる粘液を整髪材として使っていたことからついたそうだ。現代では頭を洗っていなくてギトギトしている頭髪のことを嘲って「天然ポマード」などと言ったりすることがあるが、この美男葛こそ「天然ポマード」と呼ぶに相応しい代物だ。
 またこの植物は「サネカズラ」という別名を持つ。サネ=実 カズラ=葛。実が目立つ葛という意味で、この実は髪飾りにも使われたという。つまり、美男のみならず、美女もこの植物の恩恵にあずかっていたことになる。美男葛は、美容に用いられた美しき植物なのだ。
 秋というなにやら人恋しい季節に、髪を紅の実で飾った昔の女はさぞ妖しく艶めかしかったことだろう。まるで魔女の薬でも使ったかように、実際よりも典麗な姿に見えたに違いない。
 私もこの実を髪に挿したいという思いが頭をもたげる。しかし、これは植えられているものでもあるし、摘むわけにもいくまい。そうだ、この秋は久しぶりに髪飾りでも買おうか。人を惑わすほどに美しい深紅の髪飾りと出会うことが出来たならば。(了)

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