死者からの手紙

 流通ジャーナリストの金子哲雄氏が逝去した。私の持つ彼の印象は「変なデータを持ち出して、変な論理を展開する、舌足らずの人」といったところだ。テレビで見かける、好きでも嫌いでもない人。

 私より若い印象だった(実際若かった)のに、もう亡くなってしまったのか。そう思っただけだったが、彼がしたためたという「通夜参列者に宛てた手紙」を読んで、心がぐわんと揺れた。

 死を目前にした金子氏は、遺言ではなく辞世の句でもなく、ユーモアを交えた手紙を関係者に書いたのだ。参列者は「死者からの手紙」を受け取ったわけである。
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 金子さん。面識はありませんでしたが、どうか安らかに。参列者ではありませんが、お手紙拝見しました。心にまっすぐ届きましたよ。41年間、お疲れさまでした。

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死者からの手紙1
 山田風太郎氏の『人間臨終図巻』は剣士・文士・軍人・役者・画家・ミュージシャン……等、様々な分野の人間の死に際や辞世の言葉などをまとめた興味深い書である。
 これもある意味「死者からの手紙」と言っていいだろう。上巻324人・下巻307人を扱った、ボリュームのある2冊だ。年齢別に分けられた各章に、時々、山田氏の言葉が添えられていて、彼の死生観がよく分かる。

――死をはじめて想う。それを青春という。
――神は人間を、賢愚において不平等に生み、善悪において不公平に殺す。
――同じ夜に何千人死のうと、人はただひとり死んでゆく。
――人は死んで三日たてば、三百年前に死んだのと同然になる。
――靴ヲ隔テテ痒キヲ掻ク。生ヲ隔テテ死ヲ描ク。
(以上、山田風太郎。本書より抜粋)

死者からの手紙2
 生きゆくことは死にゆくこと。いつもそう思う。
 死期は不明だけど、私も手紙でも書いておこうかな。遺言などではなく、ただの手紙を、そんなことを最近よく考えるのだ。(了)