![]() 幼い頃、おかしなものを保管していた。キャンディの包み紙だ。今のキャンディは小袋に入っているのが主流だと思うが、当時は一枚紙をねじって個包装してあるのが普通だった。現代の小袋より、色気も味わいも深かったように思う。 口にキャンディを放り込んだ後、包装紙のねじり跡を丁寧に指でのばす。しつこいシワを伸ばすときは、押し花を作るときのように本に挟んだりもした。その後、ピンと伸びた包装紙を小箱に入れて保管し、時折ふたを開いては宝石でも愛でるかのように、それをながめていたものだった。 何か使い道があるわけではない。ビニール製だからメモ用紙にできるわけでもなく、折り紙として遊ぶわけでもない。ただ、置いておく。たまに眺めては、また仕舞う。その時間はとても幸せだったように記憶している。 いつしかその収集癖はなくなり、使いもしない包み紙は捨ててしまったのだろう。捨てたときのことはまったく覚えていない。大事にしてきたものが、突然どうでもよくなるのは珍しいことではないはずだ。 蘇る思い出。 キャンディをひとつ、口に放り込む。人工的な嘘っぽい甘さが口に広がる。――過去になった思い出とキャンディの思い出は、どこか甘い香りがする。そして甘い香りの思い出は、いつもどこか嘘っぽい――そんなことを考えて過ごす晩秋の午後である。(了) |