グルメなやつら

 虫はなかなかグルメなヤツである。
 我が家の花壇および家庭菜園に植えられている色々な植物の中で、ヤツらが食べるのは青しそとバジルだけなのだ。しかも一枚きっちり食べ尽くしてから次の葉に挑めばよいものを、次々と新しい葉を食い荒らす。
 蓼食う虫もすきずきと言う。うちには蓼も生えているが、蓼に手を出す(口を出す?)虫などいない。本当に蓼を好きな虫などいるのか? という疑問さえわいてくる。

 それにしても腹が立つ。
 人間様が食べるつもりで植えたものを勝手に食いやがるとは! 
 こっちは、元手と労力がかかっておるというのに!
 キサマらのエサの為に金と時間を費やしておるのではないのだ!
 ばかものー!!

……虫は虫の言い分もあろう。
「昔の草はもっとうまかった」
「もっと食い物が豊富だった」
 農薬で殺された日にゃぁ、「無差別殺人」ならぬ「無差別殺虫事件」てなもんであろう。
 しかし、そんなことは知ったことか。

 私は以前、虫を殺すことに抵抗があった。文字通り、蚊さえ殺さぬやつであった。しかし、今はそんな抵抗など微塵もない。自分でも驚くほどだ。
 以前の私は色々な意味で「余裕」があったのだろう。「ニンゲン」としての、とってもとってもいやらしい余裕が。それはつまり世間に溢れ返っている似非エコロジストの一人だったというわけだ。

 それはさておき、虫どもよ。私をなめてはいかん。この世は弱肉強食なのだ。ははん!! 覚悟せよ!! みんな潰してやるう!!
グルメなやつら
 そう言えば昔、どこかの猫が家に侵入し、テーブルの上のうなぎを食っていったことがある。その猫はなんと、うなぎの頭部をきっちりと残し身体の部分のみを食っていったのだ。あれはひょっとして親切だったのだろうか。「残しといてあげるよ」というつもりだったのだろうか……まさか!!

 私は思う。
 あの猫はとてもグルメなヤツだったのだ。「お頭なんざ食えるか」と思ったのだ。
 そして私は結論付ける。「グルメなヤツは図々しい」と。

 いわしやサンマではなく、うなぎを盗む猫。和洋ハーブの新しい葉に次々と口をつける虫(虫どもは飽食なのか?)。

 そう、とかくグルメなヤツは図々しいのだ。
 人間でもグルメを自称するヤツは見るからに図々しそうではないか。

 そこで私に意地悪な考えが浮かぶ。
 グルメな猫がほうきで追われ、グルメな虫が潰されるのと同じく……グルメな人間も、それを不快に感じる生き物からやられちゃうのではないかしらん。自然界というものは空恐ろしいくらい同じ原理で回っておるからねぇ。
 楽しめるうちに楽しんでおきたまえ、グルメな金持ちどもよ! という負け惜しみじみた捨て台詞が、今回のオチなのであった。(了)