金木犀の思い出

 外に出ると、あちこちから金木犀の香り漂う10月。
 家にいると、あちこちから加齢臭の香り漂う10月。

 私の部屋は2階にあるのだが、窓を開けていると、金木犀の香りが入ってくる。部屋のドアを開けていると、階段を真ん中くらいまで降りてもその香りは届いている。天然の芳香剤だ。とても幸せな気分になる。

 毎年、この時期になると、私の頭に一つの思い出がよみがえる。金木犀の香りが、思い出を呼び戻すのだ。

 匂いを嗅ぐと、それに関わりのある出来事や人物を思い出す現象を「プルースト現象」というらしい。作家プルーストが作品の中で、香りがきっかけとなり過去のことを思い出すという場面を書いたことからの命名だという。

 小学生のとき、通学路に金木犀の大木が一本あった。散り始めると、地面が橙に染まるのも美しかった。ある年、地面に散っている花をさっと拾って帰ったことがある。これでポプリを作ったら、さぞいい香りだろうと思ったからだ。
 しかし、乾燥させてみたら悪臭を放った。良い香りだったものが、一転して不快な匂いに変わったのだ。やり方が悪かったのか、ポプリに向かない花なのかは分からない。ともあれ、この時期になると香りに誘発されて毎年必ずよみがえる遠い記憶だ。(了)