恋焦がれるは凶の文字

 初詣が新年の恒例行事となって13年目である。毎年おみくじを引くのだが、毎年決まって「大吉」だ。大吉以外引いたことがない。なぜか毎回大吉なので、特に嬉しくもなく、かといって悲しくもなく。

 昔は「大凶」というものもあったらしいが、これはあまりに不吉なので全国的に廃止になったと聞く。また、参拝者を気遣って「凶」を入れない神社もあるという。
 余計なことをしないで欲しい。私は「凶」が引きたいのだ。……願わくば我に七難八苦を与えたまえ。

 いやいや、違う違う。別に不幸を望んでいるわけではない。滅多に入っていないとされる「凶」。それを引き当てるくらいのパワーが欲しい。しかし、最初から入っていなければ引くことは不可能だ。「大凶」があるのなら、是非ともそれを引き当てたい。お願いだから「凶なし」なんてやめてほしい。

 などと、「凶」に想い焦がれていたら、この字の素敵さに気付いた。「凵」は箱に見える。箱の中にあるのは「メ」。バッテンを連想させる形。箱の底でバッテンが右にも左にも行けないでいる。なんて面白い字面だろう。いかにもダメダメな印象だ。

 しかし、上部が開いているのが気になる。不吉な文字なら箱のふたをきちんと閉めて、中のバッテンがどこからも出られない八方ふさがり状態にして欲しいのだが。

恋焦がれるは凶の文字

 こうなると興味は止まらない。字源が気になって漢和辞典を開いた。すると、こんなことが載っていた。

【 凵(おとし穴)と×(さけめ)を表す。】

 なるほど。

 箱ではなく、おとし穴だった。また、中のはバッテンではなく避け目。地の避け目から落とし穴に落ちた、という感じか。左右に身動きは取れない状態だが、上は開いている。穴だから脱出できるわけだ。
 うーむ。不吉といわれる「凶」は上昇のみ出来るという、なんとも希望にあふれた一字であることが分かった。落ちたらあとは上るしかないもんね。

 「凶」に恋い焦がれ、「凶」の字源を探り、「凶」に希望を見出した、2013年のはじまり。きっと上昇できるということだろう。
 嗚呼、それにしても。大凶とまでは言わない。そこまで高望みはしない。一度でいいから凶を引いてみたいものである。凶にひたすら片想い。あん。(了)