水呑み鳥

 カラスは嫌われ者だ。ゴミ荒らしの悪行に、闇色の身体とダミ声が加われば当然のことかもしれない。
 その嫌われ者のカラスが私の住居の周りには多い。カラスなどどこにいってもいるものだし、少しも珍しくはない。嫌われ者の上に珍しくないものだけに、じっと観察しようという気はなかなかおきない。だが、どうしたことか、その日はカラスに見入ってしまった。

 晴れていた。快晴だった。空が透き通っていると、その美しさにいつも鳥肌が立ってしまう。
 青空に見とれていたら、頭上から鳥の声がした。カラスだ。電柱で羽根を休めていた。
 タイムリーに空の美しさによって鳥肌が立っていた時だったせいで、
――鶏に限らず、こいつらだって鳥肌なんだよなあ
 と、カラスの羽根がむしりとられたところを想像してしまった。
 ついで、鶏のように首をちょん切られるところ、ちょん切られた後も歩いているところ・・・・などと、想像の枝は伸びていった。私のそんな残酷な想像を見抜いてかどうか知らぬが、カラスは「ガア」と声をあげた。
水呑み鳥
 その時、面白いことを発見した。カラスは鳴く時、身体をシーソーのように動かすのだ。脚を支点にして、身体はピンとのばしたままぎったんばったん。そう、昔流行したおもちゃ、水呑み鳥と同じ動きだ。

 あの水呑み鳥のモデルは、おそらくフラミンゴかツルか――……とにかくスマートな鳥だと思われる。だが、あれをカラスにしたらどうだろう。
 カラスを形どり、中の水は黒。そうした時に素晴らしいのは、「ガラスのカラス」というベタな駄洒落まで生まれ、皆の心を和ましそうな予感がすることである。ガラスのカラスは一世を風靡し、と共に、カラスは一気に鳥類のスターダムへとのし上がるのだ。

 晴れ上がった空の下、鳥肌を立てながらそんなことを考えた。そして、水呑みカラスを思いついた自分のナイスアイデアに、さらに激しい鳥肌を立てたのだった。(了)