絶対○○感

 絶対音感――。
 昔は広く知られる言葉ではなかったはずだが、2002年に最相葉月氏の『絶対音感』が大ヒットし、いきなり市民権を得た。
 もう今となっては知れ渡っている言葉なので説明するまでもないのだろうが、絶対音感の保有者は、聞いた音が「ド」なのか「ファ♯」なのか「シ♭」なのか全て分かるという。

 ピアノの鍵盤をどれかひとつ叩く。楽器をやっている者ならば、その階名をあてるくらいのことは難しくはない。
 しかし、絶対音感保有者はそんなものではない。雑多な音さえも「ドレミ」の音で聞こえるというのだから驚きだ。風の音が「ララドー」と聞こえたり、足音が「ファ♯ミ・ファ♯ミ」と聞こえたり。ゲップは「ドッ」ってところか?何か音がする度に全て階名に変換される、絶対音感恐るべし。

 私の周囲に絶対音感を持つ人はいないが、面白い能力を持つ人物(仮名:T)がいる。何か話を切り出す度に、全てダジャレに変換されるというくだらない能力だ。
 例えば、クーラーを買い換えたと言えば「そのクーラー、いくーらー?」。バンガローを借りてキャンプしようと誘えば「バンガローでガンバロー」。

 たまにダジャレを言うことくらいは誰だってあるだろう。しかし新しい話題のたびに言うのだから、これはもう、才能・能力だ。ダジャレ本の出版物がある私は、当然その能力に嫉妬してしまう。
 聞く言葉が全てダジャレに変換されるということは、まさに「絶対ダジャレ感」だ。 ひょっとしたら、自分が気付かないだけで「絶対○○感」と言えるものを誰もが持っているのだろうか。

 まだ見ぬ自分の「絶対○○感」を探して、自己を見つめてみる――そんな作業も楽しいかもしれない。(了)