魔法のステッキ

 夏が来た。夏はいつも潔くやってくる。まるで昨日と今日の境目に定規で線を引いたように「梅雨は終わり。今日から夏!」と空が語る。

 夏の風物詩と言えば、花火・浴衣・スイカ・海水浴……たくさんあげられるが、忘れてはならないのがアイスキャンディーだ。アイスクリームはコタツの中に入って暖かい部屋で食べても美味しいが、キャンディーはやはり夏に限る。

 買うならもちろんあたりつき。ぺろぺろなめていって焼印が顔をのぞかせたときの喜びといったら! 最後までじっくり味わえばいいのに、あたりだとなぜか急いで食べてしまう。

 先日、ラジオ番組で「大人になったと思う瞬間は?」というテーマが取り上げられていた。リスナーからの回答は「大人になりたいと思うのが子ども、子どもに戻りたいと思うのが大人」というのが多かった。あとは「成人式を迎えたとき」「ビールを美味しいと思うようになったとき」など。

 「自分の行動に責任が取れること」これが大人の必須条件ではあるが、もうひとつ。「アイスキャンディーにあたりが出ても交換しない」のが大人だと思う。このラインが大人と子どもを分けているような気がしてならない。しかし、大人でもあたりが出れば嬉しいことに違いはない。交換するわけでもないのに、ラッキー! などと心の中で叫んでいるはずだ。
 魔法のステッキ
 あんなちっぽけな木の棒なのに、子ども時代の感覚を呼び戻す力を持っている。ひょっとしたら、アイスキャンディーのバーは魔法のステッキなのかもしれない。願いを込めてヒュンと振れば、わきあがるようにホタルが集まり、夏の夜空に花火の大輪が咲き、庭の虫たちのおしゃべりが理解でき……そんな力を持ち合わせているかもしれない。

 さて、今夏の私は何本のアイスキャンディーを消費するのだろう。そして、あたりが出たとき交換しにいくのだろうか。…行かないだろうなあ。(了)