初夏のころ、実山椒を手に入れた。
 もともと料理は好きなのだけれど、最近もっぱら精進料理に凝っていて、お気に入りの一品は創作ごま豆腐だ。ごまの量も豆腐の固さも自分好みに調整できるので、本当に美味しく出来上がる。

 この地は、近所に野菜の直売所が多いこともあり、旬の野菜や山菜が安く手に入る。今年はたけのこやふきのとうは勿論のこと、みょうが竹やねぎ坊主など、スーパーでは並ばないような食材もたっぷりと味わった。乾物や漬物などの保存食も色々と作った。

 そんな中、ずっと気になっていた山椒。気になるだけで手を出そうとしなかった山椒。山椒に手を出したら後戻りできない――そんな予感がしてストップをかけていたのだ。
 山椒に手を出したら、さらに精進料理を突き進むことになるわよ。この恋は危険よ、後戻りできないわよ。危険すぎるわ!

 ……だというのに。
 やはり我慢できず、手を出してしまったのだ。とうとう買っちゃったよ、とうとうやっちゃったよ。

 
 新鮮な実山椒で、まずはしょうゆ漬けを作った。軸から外して、下茹でして、しょうゆベースの漬け汁で煮て出来上がり。
 手順はとても簡単だが、完成品の1粒1粒はさながら小さな宝石のよう。これをあしらうといつも買っている1丁20円の豆腐が、ちょっとお高い一品料理屋の冷ややっこのようになるのだ。これを宝石と言わずしてなんと言おう。
 などと言いつつ、20円の豆腐を買っていることを自らバラしてしまったことが気になるが、書いてしまったのでこれももう後戻りはできない。

 私はすでに小さな宝石の虜だ。白飯の上にチョイとのせたり、焼き魚の上にころがしたり、そうめんのつゆに浮かべたり。ああ、やはり後戻りのできない恋だった。
 山椒は1キロある。さ、次はちりめん山椒を作ろうか。それとも、塩漬けか、佃煮かな。恋は楽し。 (了)2018.08.18