貧乏になったときに読む本

 金の無いあなたは裕福だ。
 何も金に限ったことではない。なんにも持たないということは、なんでも持っているということなのだ。我々の生きる文明社会は、貧富の基準が完全に狂っている。
 西サモアの酋長ツイアビの演説集『パパラギ』。これは痛烈な文明批評の書である。ここでは、我々が価値あるものと信じている諸々の物質なんぞは、根底から否定されてしまう。先入観という汚れを知らぬ、恐ろしいまでに鋭利・正確な観察力をもって―。

パパラギ

 ツイアビの批判する文明とは、電化製品や自動車等を指すのではない。機具機械はもちろんのこと、彼の視線は信仰・職業・住居・マスコミ等々現代人の行住坐臥全てに向けられ、我々が愛してやまない金銭についても言及される。
 常に金のことを考えるように義務付けられ、金が愛であり神であり、それがなくては一日も生きてはいけなくなっている、と。他人が無一文で苦しんでいるのを見ても、金を持っている人間は朗らかにしている、と。我々は、いわゆる未開の地の者から「貧しい」と不憫がられるのだ。
 食欲・性欲・物欲・金欲・名声欲―。あらゆる「欲望」は人間を虜にする。一度それにとりつかれたならば、その憑き物を落とすことは甚だ難しい。
 「欲望」は満たされるや否や、次の「欲望」へと姿を変える。「欲望」は「充足」を食べて際限なく成長していくのだ。そして、その代償に魂の豊かさを失っていく。
 読者諸賢。金持ちを憐憫の目で見つめ、言ってやろうではないか。「お気の毒に。随分貧しそうですね」と。貧乏万歳。(了)