地上の竜宮城

 神奈川に引っ越して7年経つが、江ノ島駅を最初に目にしたときの衝撃は、今もって忘れない。

江ノ島駅
 ババーン!
 これですよ? 駅ですよ、これが。
 まずい韓国料理屋みたい。ですが、竜宮城なんでしょうな、きっと。

『見覚えのある レインコート 黄昏の駅で 胸が震えた(by:竹内まりあ/駅)』
……この歌詞の舞台は、江ノ島駅でないことだけは確かだな。
 いや、江ノ島だったら面白いな。
 いや、江ノ島であって欲しいな。
 切に、そう願う。
 ここでの別れや再会はおふざけムードが避けられず、それが逆に寂寥感を際立たせそうな気がする。

 ちなみに、私はこの駅を外から見たことがあるだけで、足を踏み入れたことがない。構内には、乙姫様のコスプレをした駅員さんがいるのかもしれない。酒や豪勢な料理がずらりと並んでいるのかもしれない。浦島太郎が竜宮城で体験したのは酒池肉林の宴会だったそうだから、この駅の中はアンナコトやコンナコトになっているのかもしれない。

 だがそれを確かめようとしないのは、空想は空想のままでおいておきたいからだろう。
 ネッシーの正体は実は……とか、有名な河童のミイラは実は……とか、そういうことを暴くのはまったくもって色気がない。

 私は正体を探ろうとは思わない。 江ノ島駅に対する空想よ、永遠であれ。(了)