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 暑い夜の散歩道で、カラスウリの花を見つけた。心待ちにしていた花がやっと咲いたのだ。
 あたり一面にぶら下がる朱色の実を見たのは、昨年の晩秋。夏には白い花々がさぞ玲瓏な景色を作るのだろう想像した。今夏の開花が楽しみだった。



 私はどういうわけか蔓植物が大好きだ。アサガオのように健全なイメージのある蔓植物ではなく、ヤブカラシ、ヘクソカズラ、フウセンカズラなどの野草系。中でもカラスウリが一番好きなのだ。

 夜が明けるころにはしぼんでしまう、カラスウリの花。薄命の白い花は月光をたくわえて妖しく光り、夜の虫を惹きつけて、受粉へと導く。暗闇に広がる花弁の形は、曼荼羅のように厳かだ。

 子孫を残すために咲くのだから、花が淫靡なのは当然である。しかし、カラスウリの妖艶さはただごとではない気がしてしまう。



 さらに、今年のカラスウリは妖艶なだけでなく、どこかしら狂気さえ含んでいるように見えた。白く広がる曼荼羅の花弁が、糸のような触手をさわさわと伸ばし続けているかのように見えたのだ。

 狂気の花は周囲の物をからめとり、虫も小動物も人も飲み込んでゆく。つるは地面を覆い、花は巨大なクモの巣のように咲き乱れ、やがて地球をくるんでしまう。

 ――灼熱の夜はそんな幻想をも見せてくれた。まったくもって狂気じみた夏だ。(了)2018.07.20